「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第144話

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最終章 強さなんて意味ないよ編
<シャイナたちの失敗>



「まぁ、一瞬で?」

「はい。その場に居た警備の者の話によると、本来は2万もの兵が駐屯する広大な広場に巨大な漆黒の塔が、堅牢な要塞が辺境候閣下の魔法により一瞬で建てられたそうです。翌朝私もその要塞を目にしたのですが、その姿はまるで御伽噺に出てくる魔王の城のようでした」

 戦争の話はそれ以上何もなかったようなので、話はその事後の話題に移っていた。
 そこでヨアキムさんが一番詳しく教えてくれたのが、この一夜城の話。

「その要塞に一緒に入ったのは第8軍を率いるレイ将軍のみなので中の様子は解りません。ですが真新しく見えるその要塞の大きな門が開く時、周りにはまるで軋む様な音が鳴り響いたそうで、その様子はまるで地獄へと続く門が開くようだったそうです」

「恐ろしげな外見に軋みながら開く扉ですか。なんだかホラーハウスの舞台装置のようですわね」

 これは私の想像だけど、ユグドラシルの頃から異形種である自分たちに合わせた外見の建物が建つように設定してあったんじゃないかしら。
 これが私が今設定してあるみたいに白壁で真っ赤なとんがり屋根のキラキラした外見の要塞が建ったりしたら、やっぱりイメージに合わないもの。
 でも内装までおどろおどろしかったりしたら使いづらいだろうし、中は案外普通の作りなんじゃ無いかなぁ。

 そんな事を考えながらも、私はそれを口にしない。
 だってそんな事を言い出したら何故そういう考えに至ったのかって聞かれるだろうし、聞かれたとしてもその理由を話せるはずも無いからね。

「ええ、案外アルフィン様が仰っている事が当たっているのかもしれません。周りは皆、魔王と辺境候閣下の事を呼んで畏怖していましたから、そこまで言われたのならいっそもっとそれらしくしてやろうと閣下が思われたとしてもおかしくはありませんからね」

「まぁ、うふふっ」

 魔王って言われたから拗ねてそんな外見にしたって言うのか。
 それはそれでありえそうだけど、新たに要塞の外見を設定する時間は流石になかっただろうから、そんな理由でその要塞の外見が魔王城ぽかった訳じゃないと思うわよ。
 でも、面白い意見だからちょっと乗っておくかな。

「でも、それなら中身は普通なんじゃないかしら。だって中には将軍以外入れなかったのでしょ? それなら、雰囲気作りの為にわざわざ薄暗くして使いにくくする意味が無いもの」

「ああ、そうですね。それにその要塞の中では辺境候閣下だけでなくフールーダ様もお休みになられたようですから、お化け屋敷のような場所ではいくら堅牢な要塞でも落ち着かないでしょう」

 そんな私の意見にヨアキムさんは賛同してくれた。
 とその時、私は視線を感じたのでそちらの方に目を向けてみると、その視線の主はライスターさんだった。
 でも一体何故?

「どうかなさいました?」

 そう思った私はその視線の意味を問い掛けてみたんだ。
 そしたらその質問には答えてもらえず、代わりにこんな事を聞き返されたのよ。

「アルフィン様、確かあなた様も同様に館を魔法で作り出せましたよね?」

「えっ? ええ、確かに私もきちんとした前準備と補助に数人のクリエイト魔法が使えるマジックキャスターをつければ小さな館を作り出せますわ」

 ああなるほど、規模は違うとは言え同じ建物を作るクリエイトマジックですもの、疑いの目を向けてもおかしくは無いわよね。
 ところが、彼が疑いの目を向けた本当の理由はそこじゃなかったみたいなのよ。

「なるほど、確かに私が聞いた話ではボウドアの館前に小屋を作った時は幾つかの魔法陣や祭壇を予め用意し、何人かの補助役のマジックキャスターを従えて魔法を行使したと聞き及んでおります。ですが、実際はそのような者たちがいなくても御一人で作る事が出来るのではないですか?」

「あら、何故そう思われたの?」

 いきなりぐいぐいと来るライスターさん。
 でも本当に何故だろう? 彼が急にこんな事を言い出した理由がまったく解らないのよね。
 ところがその理由を聞かされて、私はなるほどと感心させられることになる。

「それはですね、ヨアキムが先ほど辺境候閣下が一瞬にして巨大な要塞を魔法魔法で作り出したと語った時に、同席されているボルティモさんがアルフィン様に驚きの視線を送ったからですよ」

「カルロッテさんが?」

 そう言われて視線をカルロッテさんに向けると、彼女は青い顔をしてぶるぶると震えていた。
 ああ、これはとんでもない失敗をしてしまったって思ってそうね。

「あ・・・アルフィン様、私・・・」

「あらあら、そんなに気にしなくてもいいのに。結び付けられると面倒そうだなぁとは思ってはいたけど、絶対に秘密にしなければいけない話でもないですもの。たいした失敗ではないから、落ち着いて」

 私はそう言ってカルロッテさんに微笑みかけてから、改めてライスターさんに視線を移す。

「まさかそんなところまで見てるとは思わなかったわ。流石小隊とは言え隊長をしているだけの事はあるわね」
  
「お褒めに預かり、光栄です」

 なんか芝居がかってるなぁ。
 いつものライスターさんとちょっと雰囲気が違うし、なにやら緊張しているような感じもする。
 って事は、私たちとアインズ・ウール・ゴウン辺境候との関係を疑ってるのかな?

 まぁ、見詰め合っていたって意味なさそうだから、こっちから切り込んで見る事にするか。

「それで、ライスターさんは私たちと辺境候閣下が繋がっているとお考えですか?」

「いえ、それは無いと思います」

「あら、それはなぜ?」

 私がそう聞くと、ライスターさんは視線を私から少しずらす。

「えっ、私?」

 突然見つめられて、驚きながら自分を指差すシャイナ。
 そう、彼の視線が捉えたのは私の隣に座っている彼女だった。

「ええ。私が気になったのは、ヨアキムが辺境候閣下の魔法の話をした時のシャイナ様の表情です」

「隊長。大事な報告の場で俺やアルフィン様の話に集中せずに、またシャイナ様ばかり見てたんですか?」

「馬鹿、茶化すな。今は”一応”真剣な話をしているのだから」

「はい、解りました! 隊長殿」

 急に始まった二人の漫才に毒を抜かれた私たち。
 そしてどうやらそれは同時にライスターさんの緊張もほぐしたみたいね。
 多分彼の緊張を察したヨアキムさんが、失敗したり失言をしたりしてしまわないようにと、とっさに考えての行動だったのだろう。
 ホント、いいコンビだ。

「それで、シャイナはどんな表情だったのかしら?」

「はい。先ほどの辺境候閣下の魔法ですが、その威力を聞いた時、シャイナ様は笑ったのです。まるで獰猛な肉食獣のような顔をして。そしてその後はヨアキムの話など聞かずに、その場ではどのように動くべきか考えておられる御様子でした。ですよね、シャイナ様」

「そうなの?」

「はい、その通りです。面目ない」

 私の問い掛けに、首をすくめながらうなずくシャイナ。

 あちゃあ、でもまぁ彼女は元々戦闘職で脳筋だからなぁ。
 きっと戦場で使われた超位魔法を聞いて、もし自軍に使われていたらその後どう動くべきだろうか? なんて考えてたのだろう。
 で、それが顔に出ちゃって、ライスターさんにばれたって訳か。

「なるほどねぇ。で、その表情からシャイナは辺境候閣下の魔法を知っていると判断して、他に誰かがボロを出さないかって私以外にも注目していたわけね」

「はい。流石にアルフィン様と、執事のギャリソン殿からは何も読み取れませんでしたが、幸いボルティモさんがボロを出してくれました」

 笑顔でそう語るライスターさん。
 多分さっきは緊張から硬い表情で発言してしまってカルロッテさんを動揺させてしまったから、今度はこんな表情で話したんだろうね。
 それが功を奏してなのか、こんどは彼女も震えだす事はなかった。

「そこまで言われたのなら話すけど、御察しの通り私も1人で館くらいは作れるわよ。ただ、辺境候閣下が作り出したって言う要塞は現物を見てないから作れるかどうか明言はできないわ」

「なるほど。では規模はともかく、要塞は魔法で作れるというのですね」

「ええ、作れるわよ。ただ、もし作ってもシャイナなら一刀で破壊できる程度のものしか作れないけど」

 私はそう言って笑う。
 まぁ、シャイナが完全武装で集中に時間をかけた前衛版超位魔法のような攻撃の前では、クリエイトマジックで作った要塞では誰が作っても同じでしょうけどね。
 所詮一瞬で作れるものなんだから、ガチビルドでその上ガチ装備で固めたカンストキャラの一撃に耐えられるはずが無いもの。

 しかしそんな事を知らないライスターさんは、私の言葉をそれ程堅牢なものを作れないと取ったみたい。
 だから別の方法で切り込んできた。

「では辺境候閣下のような要塞は作れないとして・・・アルフィン様。先ほどの辺境候閣下の魔法、アルフィン様なら、都市国家イングウェンザーの軍勢なら耐えられますか?」

「私たち? そうねぇ、軍勢ならまず無理ね。多分同じように壊滅すると思うわ」

「軍勢ならねぇ。って事は、そうじゃなければ耐えられるって聞こえますが?」

「あら、うふふっ。そう聞こえたかしら?」

 なんかどんどん砕けた会話っぽくなってきたわね。
 なんとなくいつもの感じっぽくなってきたみたい。

 まぁ知らない仲でも無いんだしと、私はちゃんと口止めしてから話す事にした。

「ここからは他言無用。誰にも、たとえ皇帝陛下や自分の上司、それにカロッサさんやリュハネンさん相手でも黙っていて欲しいんだけど出来るかしら? できないって言うのなら話せないけど」

「それってもう耐えられるって言ってるのと同じじゃないですか。でもまぁお約束しますよ。そうしないと、どうやって防ぐのか教えてもらえなさそうだし」

 そう、破顔して答えるライスターさん。

 そうよね、もし振るわれたら最後、けして防ぐ事はできないと思っていた脅威から自分たちの身を守る術があるかもしれないと知り、実際にその方法を知っているって人がもし目の前に現れたら、どんな事をしてもそれを聞きたいと思うのは当たり前だろう。
 そして隊長に続いてその部下も、ヨアキムさんもけして洩らさないと約束してくれた。

「ありがとう。じゃあ話すけど、私を含む数人であればその魔法に対抗できると思うわ」

「その方法は?」

「単純な話よ。まず最初の即死効果だけど、それに対抗するマジックアイテムを私を含め何人かは常に装備しているわ。まぁ、それでは耐えられない類の魔法もあるんだけど、その場合は身代わりになっているアイテムもあるのよ」

 そう言って私は一枚の小さな護符を取り出す。

「これが身代わりの護符。もし私の装備を突破するほどの即死魔法がかけられたとしたら、この護符が身代わりになってくれる。そして当然これはここにいる私たち全員が、カルロッテさんも含めて持っているわよ」

「なるほど、それなら最初の魔法効果で死ぬ事は無いでしょうね。では次の魔物は? あの黒い化け物はどうするのですか?」

 実を言うと此方が誰も死ななければ山羊は生まれないのよねぇ。
 でもそんな事をライスターさんが知るはずが無いし、私が知っていてもやはりおかしい。
 だから正攻法の対処を話しておく。

「単純な話よ。シャイナを含む、私の城の子たちが対処してくれるわ」

「しかし、王国軍を蹂躙した化け物ですよ? いくらシャイナ様が強いと言っても」

「多分だけど、話を聞いた限りでは大丈夫なんじゃないかなぁ」

 今まで横で黙って聞いていたシャイナが口を開く。
 その表情は勇ましく、まるでライオンの笑顔のようだった。

「人を吹き飛ばし、踏み潰す。そして馬よりも早い。そうね、確かにそれだけを聞けば凄いと思うわよ。でも別に大地を割ったり一瞬で周りを焦土に変えたってわけじゃないんでしょ? なら大丈夫。こっちにはアルフィンもいるんですもの。彼女の補助魔法を受けた上で戦えるのであれば、私たちが負ける事は無いわ」

「では、アルフィン様たちならば辺境候閣下にも勝てると?」

「あ〜、それはまた別の話よ。と言うか、相手が1人で此方が全戦力を投入できると言うのなら勝てるとは思うわ。でもね、そんな都合のいい場面は無いと思うのよ」

 シャイナの話を聞いて辺境候を押さえ込めるのではないかって期待したライスターさんに、私は苦笑いを浮かべながらこう答える。
 だって、わざわざギルドの名前を名乗って世に出てきているのよ? それも自分たちのギルドがどう思われているのか知っている上で。
 なら1人きりで転移してきたなんて考えるほうがおかしいわよね。

 流石に41人全員で来ているとまでは思わないけど、そこそこの人数は転移に巻き込まれているだろうし、何より私たちがそうなんだからあちらも自分たちの本拠地であるナザリック大地下墳墓ごと転移していることだろう。
 ならば正面からぶつかれば負けるのは私たちの方だ。

「私たちはね、私の居城と偶然そこにいた者たちだけでこの国近くに飛ばされたのよ。本来の場所にいた人たちから借りられる戦力全てでぶつかれば勝てたかも知れないけど、今の私たちでは到底無理ね」

 これがもしユグドラシル時代の事で、私が懇意にしていた戦闘系ギルドの人たちが一緒ならまた話は違っていたかもしれない。
 でも悲しいかな、ここには私たちしかいないんだよね。

「それに辺境候閣下がその力の全てを見せたとも思えないでしょ?」

「はい」

「だからね、私が言えるのは閣下が放った魔法に対抗できるかどうかだけなのよ。それにもう一つ。あまりに強大な力を持っているから怖くなるのも解るけど、辺境候閣下はあなたたちの国であるバハルス帝国の貴族、すなわち味方なのよ。それなのにどうやって対抗しようなんていつも考えてたら、とっさにそれが態度に出てしまうんじゃないかしら。その方が問題なんじゃないの?」

「アルフィン様の仰る通りです」

 うん、ちゃんと納得してくれたみたいね。

 本当は何を考えているのかなんて解らないけど、バハルス帝国に近づき、皇帝と友誼を結んで貴族にまでなったんだからすぐに戦争になるなんて事は無いと思うんだよね。
 だから今は触らぬ神に祟りなし、幸い辺境候閣下がいる中央から遠く離れた場所にいるんだから、下手に目立たずにいるのが一番よね。

「ところでアルフィン様。その身代わりの護符とやらを譲ってはもらえないでしょうか?」

「えっ、別にいいけど・・・これって即死系の魔法にしか効果ないわよ。そんなのを相手にする事、無いでしょ?」

「ええ。ですがもしもと言う時に」

「それって辺境候閣下の魔法を想定しての事よね? なら余計にやめておいた方がいいわ」

 どう考えても耐えられた方が不味いわよね。

「それってどう言う?」

「自分の即死魔法を耐えた相手よ? 普通なら興味を持つでしょ。そうなった時のほうが、私は恐ろしいわね」

「ですが、死んだら終わりですよ!」

「えっ? ん〜、ああそうね。確かにそうだわ」

 私の反応に疑いの目を向けるライスターさんとヨアキムさん。
 ああ、これは・・・。

「大丈夫よ、その時はアルフィンが生き返らせてくれるから」

「こらシャイナ!」

「やっぱりアルフィン様は使えるんですね。蘇生魔法、レイズ・デッドを」

 想像通り、ライスターさんたちは私が蘇生魔法を使えるのだろうって思ってたみたい。
 まぁ、これも何か事故があって誰かが死んだら使う事になっていただろうし、さっき以降の話は他言無用って言ってあるからばれてもいいか・・・なんて思っていた私が馬鹿だった。

「レイズ・デッド? そんな低位魔法使ったらほとんどの人が耐えられずに灰になっちゃうじゃないの。でも大丈夫、アルフィンはトゥルーリザレクションも使えるから、ライスターさんの部隊の人たちは何時死んでも、そうたとえ粉々になって死体が残ってなかったとしても生き返る事ができるわよ」

「ばっ、このっ、なに言い出すのよ、シャイナ!」

 隣に脳筋の考え無しがいるのを忘れてた! 
 そしてこの発言がその場の空気を一気に過熱する。

「灰にならない? って事は一般人でも耐えられる蘇生魔法が存在するって事ですか?」

「そんな魔法があるのなら・・・アルフィン様、もしもの場合はぜひ!」

 幾ら元冒険者ばかりで構成されているライスター小隊と言えども、伝令や後方の補給部隊の中には5レベル以下の人たちもいるのだろう。

 シャイナの言葉に目の色を変えたそんなライスターさんたちを前に、頭を抱えるアルフィンだった。


あとがきのような、言い訳のようなもの



 アルフィンはうまく立ち回っていましたが、その周りが問題でした。
 そりゃそうですよね、カルロッテさんは元冒険者とは言え一般人だし、シャイナは・・・まぁあれですから。

 因みにライスターがアインズ様の超位魔法の話をしている時にシャイナを見ていた理由ですが、実はヨアキムが指摘したとおりです。
 ずっと見とれていて、そのおかげでその変化に気付けたんですよね。
 と言う訳で、あれはアルフィンが言ったような理由ではなく、まったくの偶然ですw


 さて、毎週のようで申し訳ないのですが、来週末の土日が両日とも出張になりそうです。
 なので今週のように土曜日に更新する事もできないんですよ。
 ですが月曜日には代休がもらえそうなので、休載する事はありません。
 この様な事情なので、申し訳ありませんが次回更新は12日の月曜日になります。


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